南海トラフ もう一つの津波想定
南海トラフ巨大地震で最大クラスの地震が起きた場合、津波の高さは九州~東海の広範囲で10メートル以上、高いところで34メートルと想定されています。一方、これとは別に2020(令和2)年1月に公表されたのが「30年以内に津波に襲われる確率」。10メートル以上の津波に襲われる確率は高知県や三重県の高いところで「6%以上26%未満」となりました。一見低いようですが、実は「高い」確率だといいます。こうした想定どう受け止めたらいいのでしょうか?
目次
2つの津波想定
最大クラスの津波の高さ(中央防災会議)
「最大で高さ34メートルの津波に襲われる」東日本大震災翌年の平成24年、政府の中央防災会議が公表した数字に衝撃が走りました。南海トラフ沿いで起きる最大クラスの地震の規模をマグニチュード9.1とし、各地を襲う津波の高さは高知県黒潮町と土佐清水市で34メートル、静岡県下田市で33メートル。20メートル以上の津波も四国から関東にかけての23市町村に。そして10メートル以上の津波が静岡県、和歌山県、徳島県、高知県、宮崎県の沿岸部のほとんどの地域を襲うとされました。以前の想定では最高でも17メートル。一気に想定が2倍に跳ね上がったのです。これは、東日本大震災で想定をはるかに上回る津波が発生したことを教訓に科学的に考えられる最大クラスの地震を想定して津波の高さを試算したためでした。国や南海トラフ沿いの自治体はこの最大クラスの津波から命を守ることを目標に、防潮堤などのハード整備と住民の避難を組み合わせて対策を進めています。
津波の確率(地震調査委員会)
一方、2020(令和2)年1月に政府の地震調査委員会が公表したのが「今後30年以内に津波に襲われる確率」です。中央防災会議の想定が「最大クラスの津波の高さ」を算出したのに対し、地震調査委員会の想定は津波の高さを10メートル、5メートル、3メートルの3段階に分け、こうした津波が30年以内に来る確率を計算したものです。
その際「マグニチュード9.1の最大クラスの巨大地震は、少なくとも最近2000年間は起きておらず確率が計算できない」として対象から外されました。
対象としたのは100年から200年の間隔で繰り返し発生するマグニチュード8~9クラスの巨大地震です。
確率は「26%以上(非常に高い・図の紫色)●」、「6%以上~26%未満(高い・赤)●」、「6%未満(黄)●」の3段階で示されました。26%は100年に1回、6%は500年に1回という頻度にあたります。
津波高3m
3メートル以上の津波に「26%以上」という非常に高い確率で襲われる市町村は、四国・近畿・東海を中心に伊豆諸島や九州の71市区町村にのぼりました。
これをどう読み解けばいいのでしょうか?
気象庁は「3メートル以上の津波で住宅の流失が始まる」としていて、地震調査委は30年以内に交通事故でけがをする確率は15%としています。つまり、上記71市区町村では「交通事故に遭ってけがをする確率よりも、津波で家が壊される確率の方が高い」と考えることができます。
津波高5m
住宅の流失が急増するとされる5メートル以上の津波は、四国、近畿、東海を中心とした計29市町村で「26%以上」と非常に高くなりました。
津波高10m
10メートル以上の津波に襲われる確率は、非常に高い26%以上の市町村はありませんでしたが、高知県や三重県を中心とした計21市町で「6%以上26%未満」と高くなりました。最大クラスだけでなく可能性の高い津波に備えて
地震調査委は「次に来る津波が必ずしも最大クラスとは限らない。3メートルや5メートル、10メートルの津波はもっと高い頻度で来るということを理解してもらいたい。最大クラスの備えが全部できていればいいが、そこまでできていないところもあるので、まず可能性が高い津波を対象にできることから少しずつやっていくことも役に立つ。これまでよりも情報の種類が豊富になったと理解してほしい」としています。
より防災につなげるために
地震調査研究推進本部の施策の方針などを決める政策委員会の委員長を務める名古屋大学の福和伸夫教授は、地震調査委が公表した津波の確率について「地震や津波の起こり方は多様で、最大クラス以外の津波の可能性の方が高いので、場所によって確率も幅があると示したことには意味がある」と話しています。
一方で、「海岸での津波の高さだけでなく、自分が住んでいるところの浸水深や何分後に津波が来るのかということが大事であり、都道府県や市区町村、住民にとって必要な情報は何かを考えて提供すべきだ。地震調査研究推進本部(地震調査委員会)は防災に関わる機関とのキャッチボールを今後進めていくことが必要だ」と話しています。